部首のデザインを工夫して、文字表現のバリエーションを増やす
- 漢字を構成する字形要素の部首、すべて漢字はいずれかの部首に所属しています。「ヘン」「カンムリ」「タレ」「カマエ」などがあり、部分は構造により「ツクリ」など二つ以上に分かれることがあります。文字を学習する際や一般のフォント文字でも分かるように、「ヘン」と「ツクリ」の比率は漢字によってこっちが狭く、こっちを大きくという一般的概念があります。文字をデフォルメする際、私たちは視覚的にそれを長年インプットしているため、造形的に比率を逆にしたり変えたりすることに躊躇します。ここでは、発想を転換することで独創的な「カタチ」を生み出すヒントを探りました。
ポイント①=文字を「ヘン」と「ツクリ」に分けて、さまざまな面での構図で考えてみる。
ポイント②=文字を細かく分解し、そのパーツごとに分割してデザインを考えてみる。
面の構図(シチュエーション)で考える
【いとへん「紙」】

- 構図①のように、『紙』の「ヘン」と「ツクリ」の造形的な比率は1対1.5のバランスで見る事ができます。紙に限らず一般的な「いとへん」の文字は、ほぼ同じようなカタチを成しています。私が文字をレイアウトする際、この造形バランスや配置を変えることで新しいカタチの文字を探っています。
- 構図②では、「ヘン」を正方形に対して「ツクリ」を長めにした組み合わせで構図をシュミレーションしています。
- 特長は天は頭ゾロエですが、地は「ツクリ」が「ヘン」より、かなり下がっているのが分かります。線質は強めでしっかりした印象を与える構成で書いてみました。
- 構図③は「ヘン」が、たて長に対して「ツクリ」をよこ長に構成し、それぞれ天地を揃えてないレイアウトが特長です。線質は一定の太さで書くことで、軽快なポップ調に仕上げています。
- 構図④では「ヘン」に対して「ツクリ」が極端に大きい構成になっているのが分かります。地は揃えていますが、天は大きく飛び出しゆったりとした空間を生み出しています。運筆をゆっくりとゆるみをもたすことで、やや素朴なレトロ感をイメージさせる線質にしてみました。
- 構図⑤は「ヘン」と「ツクリ」をずらした構成で、線質はモダンで、スピード感やリズム感のあるデザインを演出しています。
- このように、適当な面を作成した中で文字のパーツを当て込みます。ワクの中でどのようなカタチに変形できるかをラフデザインしていきます。
- 形あるものの形を越えて表現を起こす場合、ラフデザインによっておおよその配置を確認することで必要とされる要件も整理できます。また、状況によってはアイデアの実現を段階的に見せていく事も有効な手段かもしれません。これは、クライアントに対して選択肢を多くすることで満足度を感じさせる狙いもあるからです。
面の構図(シチュエーション)で考える
【さまざまな部首のデザイン】


- 構図⑥から構図⑨はさまざまな部首をデザインした例です。部首の造形的な比率や位置関係を大きく裏切り、アンバランスなバランスの中で可読性を保っています。文字や部首がシンメトリー(左右対称)の場合は、デザインをすることに苦労しますが、一画目の位置やセンターの軸を曖昧にすることで変化が生まれてきます。
- 構図⑩は、構図⑨からのバリエーションで、「庵」のプロポーションと線質を変えた例です。構図⑨がモダンなスタイルなら、構図⑩の右の「庵」は、素朴な雰囲気に表現しています。運筆をゆっくりに一定の太さで線を書き、この文字の場合には重心を下に置くことで素朴感を表現することができます。

- 構図⑩の左の「庵」は、「まだれ」と「ツクリ」の長さを下揃えにし、重心を右に寄せているのが特長です。このように同じ文字でもプロポーションや線質を変化させることで、醸し出す空気感の違いを生み出すことが大切です。
- 単語や熟語など、複数の文字の組み合わせをデザインする際、使用する目的や用途によって書き方やその様子も異なってきます。可読性の許容範囲は、文字の役割や性格によっても違うので、事前に関係者間で十分なコンセンサス(同意)が必要です。